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チューク環礁内には80前後の無人島がある。
長さ数キロにわたる大きなものから、数十メートルの小さなものまで様々である。
南の島の人達にとって、無人島は絶好の漁場であり、遊びの場でもある。
同時にまた、このような無人島は恰好の海鳥の棲みかともなっている。
今年の正月明け、そんな小さな無人島の一つに行ってみた。
見渡す限りコバルトブルーに輝く、アウトリーフの先端にその無人島はある。
そこは幅20~30m、長さ200m程の、出来たばかりの砂浜の島である。
この2~3年で緑も少しずつ増えてはきたが、まだ人が涼をとるほどではない。
こんな、まだ人が余り行かない無人島には海鳥が産卵をするケースが多い。

ボートが島に近づくにつれ、海鳥達が騒ぎ始める。
一斉に島の上空を飛び交い、我々が乗っているボートのそばまで飛んできては異常な泣き声を発している。 卵や雛鳥を守るための威嚇行動だ。 島に上陸して見てみると、いるいる、
そこら中に雛鳥の姿が見える。 まだ生まれたばかりの雛鳥たちが、私達の足音におびえて逃げ惑っている。 島の中を歩き回るのもはばかられる。 注意深く砂の上を歩いていくと、 砂の色とそっくりの卵がそこら中にあり、うっかりすると踏み潰しそうになる。 島の中を歩くたびに、ヒッチコックよろしく親鳥達の威嚇攻撃を受ける。 少し大きくなった雛鳥は、小さな島の中で逃げ場を失って波打ち際まで移動している。 海鳥のコロニーだ。

最初の訪問から2週間後、フィッシングの休憩時間に、またこの島に上陸した。
最初の訪問時と同じく、コバルトブルーの水面を進むにつれ、親鳥達が盛んに威嚇し始める。2週間も経つと、雛鳥たちもかなり成長したらしく、幼稚園の園児よろしく静かなビーチの上に整然と並んでいる。 現地人スタッフが雛鳥たちに近づいて行く。 驚いた雛鳥達は、逃げ場を失ってビーチから海の中に逃げ惑っている。 面白がっている現地人スタッフに、もうそれ以上近づかないように注意する。 海に逃げた雛鳥たちは必死になって砂浜に戻ろうとしている。親鳥達も雛の上で盛んに声を出し、励ましている様子がうかがえる。 風や潮の流れが強くて思うように行かないようだ。 それでも皆は一かたまりになって、やっと砂地に上陸できた。  見ている方もハラハラドキドキで手に汗握る光景だ。

その後も、1週間おきに2度、この無人島に行ってみた。
驚くほど成長が早い。 大きくなった雛鳥の数は行く度毎に増えており、今ではビーチの先端の砂地を埋め尽くすほどである。 細長い島の両端に、この雛鳥たちの集団がある。
よく見ると不思議な事に、北側のビーチは白い鳥の集団で、反対側の南側のビーチは黒い鳥の集団となっている。 黒い鳥の集団の中には、白っぽい雛鳥の姿も混じっている。
写真を撮ろうと近づくと、例によってすぐに海の方に逃げてゆく。 それがかわいそうで、なかなかそれ以上は近づけない。

 最初の訪問からほぼ1ヵ月後、もう一度この島を訪ねた。
例によって親鳥達の威嚇の歓迎を受け、島に上陸する。 北の白人と南の黒人の領域はそのままだ。 みごとに分かれている。 それぞれに大きくなった雛鳥達は、親鳥に混じって、島の先端のビーチで風を体いっぱいに受けて立っている。 時々、風に向って羽を広げるしぐさを繰り返しているのがわかる。 飛ぶ練習をしているのだ。 いよいよ巣立ちも間近である事を示している。 写真も撮りたかったのでちょっと近づいて見る。
先週までは、逃げ場もなく海の上で逃げ惑っていた雛鳥は、一斉に羽を広げ、なんと上空に舞い上がったではないか! 飛べるんだ! 飛べるようになったんだ!
心の中で言いようのない感動が湧き上がってくる。
それでも長く居るのは邪魔だと思い、すぐに遠くに引き下がった。
案の定、飛び上がったばかりの雛鳥達は、すぐに元の砂地に舞い降りてきた。
親鳥達に比べ、飛び方もまだぎこちないのが見て取れる。

孤島を選んで産卵し、孵った雛鳥は砂浜の上で一日中風に向って立っている。
見事なまでの整列だ。時々羽を広げては砂の上を走り回っている。
天空高く舞うイメージを膨らませているのだろうか。 
もう巣立ちはすぐそこだ。
貿易風が強くなるこの時期を選んで産卵するのも、海鳥達の生存の知恵なのかもしれない。
大海原を自由に飛び交い、大海に羽を休める・・・。
いつも外洋で見かける海鳥達の一生を垣間見た気がする。