2017年06月

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ミクロネシア・チューク(トラック島)に来て、この6月で40年が経った。
人生の大半をこの小さな南の島で過ごした事になる。

最初のチューク訪問は学生最後の卒業休み。学友4人で世界の秘境を物色していた。
縁あってトラック島(チューク)に決めた。
1か月間チュークの島々を訪ねた。全く異次元の世界だった。何もかもが新鮮だった。
以後、皆で会うたびにチューク移住を語り合った。4人でチュークに移住しようと約束した。
1年たち、2年が夢と共に経過した。それぞれが故あって夢を断念し、私1人が残った。

皆にチューク移住を誓い決意した。
1978年6月、日本を全て清算し夢の世界に旅立った。

新天地での生活必需品を厳選し、12個の段ボールに詰め、船便でトラック島に送った。
港に届いた玉手箱の中身は全て霧と消えていた。
荒らされた段ボールの片隅に大好きな地図帳だけがあった。

なーに、元々ゼロからの出発だ。
ゼロの世界を選んだのは自分なのだ。

こういう世界である事を肝に銘じた。

旅行業に興味をもち、日本でもその仕事をしていた私は、躊躇なくこのチュークでも観光業を始めた。
その後、紆余曲折はあったが、幸い今も元気でこの仕事を楽しんでいる。

チューク人によく言われる言葉がある。
『スエナガ、あんたはいったい何歳なの?』 
『私が小さい時からあんたは同じ顔をしてるし、ちっとも変わんないね!』
そんな時、私は決まって言う。
『日本人は歳をとらないんだ!』

その間、無人島が何度も消滅し、何度も復活した。
かく言う私も、何度も消滅し、何度も復活した。

そして今また、その無人島にも少しずつ緑が増え、ヤシの木が実を付け始めている。

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「主人の遺骨をチュークの海に散骨したい」
過去に2度ほどチュークをご訪問なさった石束ご夫妻の奥様からそのような依頼を受けた。

ご主人が亡くなったのは平成27年12月26日の誕生日(満91歳)の夜。
恒例の白馬の山での誕生会を迎えている時であった。
真っ白に雪化粧をした白馬の山々を眺め好物のシャンパンを口にしながら「ああ白馬の山は本当に綺麗だ!」
とつぶやいた直後、そのまま白銀に輝く天国に旅立っていった。

石束ご夫妻が初めてチュークを訪れたのは2009年の春。
石束先生85歳のときであった。
飛行機のタラップを颯爽と降りてくる彼の洗練された姿は、今でも鮮明に私の脳裏に焼き付いている。
「幼少の頃からおしゃれが身についていて最後までオシャレでした」という奥様の言葉通りに、年齢を把握していた私の先入観とは全くかけ離れたものだった。
私たちは初対面にも拘わらずまるで旧知の間柄のように意気投合した。   
長いブランクがあり今回が3度目の訪問となった。
奇しくもその訪問は40年前に私がトラック島に移住した日でもあった。
そしてそれは無言の再会となった。

兵隊でもない彼がなぜトラック島に散骨を? 
2回しか訪れていない彼がなぜトラック島に散骨を?。
奥様から散骨の依頼を受けた時以来、私の頭の中にはかすかな疑問が沸いていた。

再会した奥様のお話がその謎を解いてくれた。
『主人は医師を目指し、小さいころから猛勉強をしていました。そのため医学生となったことで戦争に行くことが出来ず、そのことをずっと負い目に感じていました。戦争で命を落としていった同世代の人々に対する、深い悲しみと申し訳なさと感謝の念は本当に強いものでした。きっと今頃はトラックの海で亡くなった人々の手を握ってお礼を言って感謝していると思います』

また彼は、叔父方が海軍兵学校の教官をやっていた関係もあり、自分もまた連合艦隊司令長官・山本五十六を尊敬していたと言う。
常に純白の軍装に身を包み威厳をもって軍務に服していた山本五十六同様に、自らもまた医師たる者は!と、常にネクタイと白衣と革靴を外した事は無かった。部下にも着衣については厳しく指導した半面、「 医師としての使命を忘れず責任を持って医療に励め、好きにやってよい、自分がすべて責任をとる」と、厳しくも優しく指導した。

その山本五十六は59年の生涯最後の7ヵ月を、このトラック島(チューク)の海で過ごし、海に旅立った。
そして医師だったご主人もまた生涯現役を務め、このトラック島を黄泉の海と定めた。
『なにか、山本五十六と同じような気がしますね。五十六に会いたかったでしょうね』。

私の疑問がサラサラと1つに溶けていった。
きっと彼は白馬の銀世界からトラック島の海に還って行ったのだろう。

『散骨は本当に感激的なものでした。』
『あのキラキラ光る主人の遺骨は、主人の好きな宇宙の星のように煌めいておりました。』
『主人は京都のお寺ではなく、この大海の宇宙にいると思えるようになりました。』

『時空の割れ目からひょっこり帰って来て欲しい・・・。』

そう祈る奥様の瞳の先には、澄みきった海の中で眩いばかりに光り輝く彼の遺骨があった。

まるで太陽にきらめく白銀のごとく、驚くべき光を放ち続ける彼の遺骨を目の当たりにした時、石束嘉男はきっとこの海に居るのを確信した。

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